童話の宝石箱について

世界中には、全生涯を費やしても読破できないほどの書物が多くの分野で大河のように溢れています。その中にあって、童話はどちらかと言えば華々しくはなく細く静かに、然し、絶えることなく流れ続ける小川のような場を占めているようです。その静かな小川の底にそっと落ちている童話の宝石を見いだして、心の箱におさめてくださることを願いつつ、サイトのタイトルといたしました。

童話専門のサイト

童話と言いますと、当然のように幼い頃に感動しても、大人になるといつの間にか忘れてしまっています。ところが、最近は大人のための童話が静かなブームを呼んでいます。純粋で心に優しく、小難しいところのないシンプルな読み物として再び見直されているのかもしれません。

このサイトは創作童話だけで成る童話専門のサイトとなっております。そのご期待にお応えできるか否かはなんとも言えませんが、どうぞ、この童話サイトが掠る程度でもお役に立ちますように。 (by 徳川悠未)

 

 

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童話「アネモネと原っぱの仲間たち」

この童話は、比ゆ的・・例えとして乙女をアネモネに仕上げて重ねてあります。乙女時代は、なにしろ外見を気にする頃ですね。自分の姿の欠点にコンプレックスを抱き、なかなか積極的になれないアネモネが緊急事態に目覚める、という設定です。その事態が原っぱの仲間との絆を深める機会ともなりアネモネは変わっていくという内容の童話です。

 

 

アネモネと原っぱの仲間たち

童話の宝石箱のアネモネ

今年も春が近づきました。
原っぱで、まだ地面にくっついている
蕾(つぼみ)のアネモネは
顔を土に埋めたままで悩んでいます。

この原っぱでアネモネより上品で
華麗な草花はいません。
地中海沿岸生まれで、
聖書の中でイエス様に美しい姿が褒(ほ)められ
足元で揺れて見せたという有名な花なのです。
どの草花からも尊敬され続けてきました。
「風」という意味のギリシャ語からきた
アネモネという名前も、
そよそよ揺れたときの気品さえ思わせます。

でもアネモネにはどうにもならない
悩みがあったのでした。
その悩みは背丈と同じ速さで大きくなります。
原っぱに生え出てから、
これ迄の二年間隠し通した悩みを
今年の春も隠せるでしょうか。
そして、ついに花首の少し下に
悩みの原因が目立ち始めます。

三月の晴れた日、冬眠から目覚めたばかりの
蛙(かえる)が草の上を横切りながらつぶやきます。
「なんだ!お前!よだれ掛(か)けを
つけた花なんて初めて見たぞ。」
若いモグラも土の中からチラッと
アネモネを見て声をかけます。
「おっ!よだれ掛けつけてるな・・
何、食べたんだ?」

そうです。
アネモネの密かな悩みは花首の下の方についている
ちょっと目立つ『よだれ掛け』?
いいえ、よだれ掛けの様な花のガクだったのです。
花びらを大きく開いてしまえば隠れてしまうのですが、
今はまだ蕾なので隠し切れません。
それに花を開いてからも下からは丸見えです。

上品なアネモネは考えただけで恥ずかしくなり
うつむいてしまいます。
『大人になってもよだれ掛けなんて・・
友達のタンポポさん達に気づかれたら、
きっと嫌われるに違いないわ。どうしよう!』。

4月、アネモネの花がゆっくり開き始めます。
悩みの葉っぱが出来るだけ隠れるように
うつむいて開きます。
本当は春の眩(まぶ)しいお日様に向かって
思いっきり花びらを広げたいのだけど・・。

友達のタンポポは、まだ固い蕾のままです。
すみれは今にも咲きそうな気配です。
背の高い菜の花は、暖かいお日様の色を
そのまま映して咲いています。
みんなお空に向かって精一杯元気に背伸びしています。
でもアネモネだけは、
その白い花を下に折り曲げて弱々しく見えます。

夕方になりました。
アネモネも花びらを閉じ三角錐の
とんがり帽子になりました。
皆に、おやすみなさい・・を言おうとしていたその時、
モグラのおばさんが原っぱの皆に大声で叫び始めます。
「みんな~!聞いとくれ!大変なんだぁ~!
この原っぱがなくなってしまうらしいよ。
レジャーランドとかいうものが出来るそうだよ。
明日、市長さんが視察に
来ることになったんですって!」
早耳のモグラおばさんの知らせで
原っぱのあちこちが急に騒がしくなりました。

しばらくして菜の花が
「皆さ~ん!いい考えがあります。
ここが壊されないために、原っぱの美しさを
市長さんに認めてもらいましょう。明日は思いっきり
命がけで一斉に咲いて見せませんか~?」
と呼びかけます。
菜の花の呼びかけに原っぱの仲間たちは
全員うなずきます。

「明日は頑張るわ!生死の分かれ目ですものね」と、
まだ固い蕾のタンポポがアネモネに話しかけながら
眠ってしまいました。
アネモネは花を閉じ白い三角帽子になったものの
なかなか眠れません。
『どうしよう~お日様に向かってしっかり咲くと
首の葉っぱが目立ってしまう。
きっと皆に笑われるわ。
でもこの原っぱがなくなったら皆死んじゃう。
そうだわ、
私一人がしっかり咲かなくても大したことではないわ。
どうせ市長さんの目に私は留まらないから・・・』
とあれこれ考えて夜が更(ふ)けました。

翌朝、
驚いたことに固い蕾だったタンポポが
たくさん花を咲かせているではありませんか。
あちらにもこちらにも
まるで原っぱに明かりが灯(とも)ったように
輝いています。
すみれも落ち着いた紫色で原っぱを飾っています。
遠く離れた所には真っ赤なポピーの姿も見えます。
でもアネモネはやっぱり首を垂(た)れて
今朝も咲き始めます。

友達のタンポポは
そんなアネモネを黙って眺めています。
そしてお日様がちょうど頭の上に座った頃、
市長さん達の白い車がやって来ました。
原っぱの皆は緊張します。
モグラ達も土の中でじっとしています。
市長さんの足が草の上に降り立ちました。
「ほほ~っ!海も見えるし、なかなか見晴らしの
いい場所だねぇ。
これはレジャーランドにもってこいではないかね?」
と、市長さんの一言です。
「いい場所だからこそ私は、
自然のふれあい公園にしたいと申しているのです!」
と熱っぽく語るのは女性の議員さんです。
「君!市長さんが決定をすることなのだから・・」
とゴマを摺(す)っているのは男性の議員さんです。
三人は話しながら歩き出します。

「まあ、何ときれいな花でしょう~!」
と、女性議員は作戦を変更して草花に
注意を惹(ひ)きます。
そしてキョロキョロと原っぱの中を
何やら捜し始めています。
アネモネと目が合うと突然顔を輝かせて、
市長さんを誘いゆっくりとこちらに
近づいて来ました。
それに気付いたタンポポが小さな声で、
しかし強い口調で
「アネモネさん!あなたの出番よ。
皆があなたを愛していることを忘れないでね」
と、囁(ささや)きます。

アネモネは透けるほど白い花びらを震わせながら、
うつむいたまま嘆きます。
『どうして?どうして私なの?
嫌だわ。お願いだから来ないで!』
と心の中で叫びますが、
市長さん達三人はそばまで来てしまいました。

しかし、三人の足音の響きを耳元で聞いたその時!
アネモネは自分のすべてを賭(か)ける
覚悟をしたのでした。
次の瞬間!
青空のお日様に向かって
思いっきり顔を上げ茎がちぎれんばかりに、
すっく!と、立ちました。
アネモネさんの上品で優雅な姿に
タンポポは嬉しそうに微笑みます。
今や、
アネモネは悩みのタネであるよだれ掛けのことを
気にかけてはいませんでした。
とにかく原っぱの皆と自分のために!
それだけで精一杯です。
その一途(いちず)な思いが、
アネモネの白い花びらをより一層
白く見せていました。

女性議員さんが指で触れて
「あらっ!こんなところに白いアネモネが
咲いていますわよ、市長!」と言います。
すると
「あーッ!これはすてきな白い花だ~!」
と、白い色の大好きな市長さんは
アネモネの前にかがみ込みました。
そして、つくづく眺めて
「これは驚いた!
何と、レースのスタンドカラーを付けているとは!
何と気高くエレガントなんだ。
よしっ!この花をもっと植えて、
自然のふれあい公園にして見るのも
いいかもしれないぞ!」
と、大声で決定を表明します。
市長さんは白い花が大好きだと、
知っていた女性議員さんの思惑通りなのです。

原っぱの仲間全員が市長さんの言葉を聞いて
大喜びです。
アネモネは
『よだれ掛け』が
『レースのスタンドカラー』と褒められたことが
驚きでした。
タンポポが明るく言いました
「やっぱり、上品なアネモネさんには
レースのスタンドカラーがお似合いよ。」
タンポポは首のガクである葉っぱのよだれ掛けを
初めから知っていたのでした。
必死に隠していたつもりだったのに・・。

アネモネは今日の経験で、
自分の悩みが大したことではないと
思うようになりました。
もっと大切なことに気付いたからです。
それは仲間を信じる事と
互いに助け合うことでした。
そして今年の春、
アネモネは仲間と共に幸せに満たされて!
風に揺れながら咲き続けます。
素敵で上品な『よだれ掛け』を
堂々と付けたまま・・。


《サイト内のページの紹介》
アネモネと原っぱの仲間たち 桜草の冬日誌 リナのすてきな真夏の絵 たんぽぽ坊やのパラシュート旅行 雪の中のプライド
今年も春が近づきました。 原っぱで、まだ地面にくっついている蕾(つぼみ)のアネモネは顔を土に埋めたままで悩んでいます。・・・・・
木枯らしがヒューヒュー吹いています。 雪もコンコン積もりました。・・・・・
十二歳の内気なリナは、今日も窓から梅雨空を眺めています。 今年になって二度も大きな手術を受け、やっと歩けるようになった両足を そっと押さえています。・・・・・
北風が吹き始めました。 街路樹の根元に咲いていた たんぽぽ母さんの黄色い花も種になり、ふわふわの綿毛のパラシュートも出来上がりました。・・・・・
降りしきる雪の中、 電線に並ぶカラスの親子がいました。 子カラスが言い出しました。 「母さん、寒いよ~」 「そうだねぇ」 「お腹もすいたよ~」 「そうだねぇ」と、母カラス。・・・・・


《童話のサイトの紹介》
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