この童話の続編

この宝石箱に入りきれない童話が他にもございます。例えばこのページと同じカラスの母と子を主人公にした童話です。それはこの童話の続編ともいえるもので、正しいプライドを抱いて生き抜く姿を5話にわたって描きました。是非ご覧下さいますように。

最新の創作童話

これからも、創作した童話のサイトを少しずつ増やしていきたいと願っております。この時点での最新の創作童話は、カラスの童話「ぷらいど物語」ですが、まだまだサイトを設けますのでよろしくお願いいたします。

 

 

童話「雪の中のプライド」

冷たい雪の中で黒いカラスの母と子がエサをさがすために、じっと電線にとまっています。白い大地でエサはみつかるのでしょうか。仲間のカラスはエサを探しに街へと飛びます。なぜ、母と子は一緒に街へ飛ばないのでしょうか。そして、エサは・・・仲間のカラスは?

 

 

雪の中のプライド

童話の宝石箱のプライド

降りしきる雪の中、
電線に並ぶカラスの親子がいました。

子カラスが言い出しました。
「母さん、寒いよ~」
「そうだねぇ」
「お腹もすいたよ~」
「そうだねぇ」と、母カラス。
「皆は、街のごみ置き場でビニール袋を破ってさ~、
エサ食べてるんだってよ~」
「そうだねぇ」
「母さん、ぼくたちもそうしないと・・
死んじゃうよ~」
「そうだねぇ」
「どうして皆のようにしないの?」
「人さまに、迷惑はかけられないからだよ」
「どうして、それが迷惑なの?」
子カラスにはわかりません。
「食べ散らかしたごみのためだよ。
カラスの道に反するからね。
母さんの母さんも、その母さんも・・
カラスの正しい道を守ってるんだよ」
「ふ~ん、でも母さん・・やっぱりお腹がすいたよ~」
「そうだねぇ。」
子カラスは、あきらめて肩をすぼめてしまいました。
水墨画のような雪国の景色は、
ますます空腹を感じさせます。

「母さん・・」とぽつんと呼びます。
「きっと、エサはみつかるよ」母は答えました。
「いつまで、こうして待つの?」
「みつかるまでだよ、ぼうや」
「みつかるかなあ・・」
「きっと、みつかるんだよ。
神様は、わたしたちを忘れたりしないよ」
「ふ~ん」
子カラスは不満そうに雪空を見上げました。
やがて、雪が降り止みました。
静かな銀色の大地に、ほんの少しだけ雲間から
光が射し始めています。

「母さん、エサはみつかるの~」
「そうだよ」
母は答えて・・バサッーと飛び上り、
少し離れた畑の雪の上に降り立ちます。
子カラスは電線の上に残ったまま母の姿を
くりくりの目で追います。
しばらくして、母カラスが呼びました
「ぼうや!おいで!」
「わ~い、エサがみつかったんだ~」
子カラスは覚えたての急降下で
母の傍(かたわ)らにいきます。
雪の中から、人さまには使い物にならないと捨てられた
小さな芋がいくつもみつかったのです。
「おいしいねぇ」
「おいしいねぇ」
食べて満ち足りました。

「さあ、山に帰ろうねぇ」
母カラスが言ったその時、
「や~い!そんな物、食べてるのカァ~!
恥ずかしくないのカァ~!」
仲間のカラスがやじりました。
母カラスはそれを無視して・・
子カラスに、もう一度
「さあ、山に帰ろうねぇ」
と言います。
そして、ゆっくり飛び上ります。
親子は、日が沈みゆく山へ向かいました。

童話の宝石箱のプライド 毎朝、空が白んだ頃
母と子は冷たい野や畑に出かけます。
昨日はエサが何もみつかりませんでした。
子カラスは涙をこぼしながら電線の上で言いました。
「今日もエサがないと、僕たち死んじゃうよ~。」
でも母カラスは
「死にはしないんだよ」
と、言います。
「どうしてさあ。」
「カラスの道を守った母さんの母さんも、
そのまた母さんもエサがなくて死んだりは
しなかったんだよ。」
「ふ~ん」
子カラスは何となく納得しますが、
小さな黒いお腹はすっかりへこんでいます。

見上げると、
仲間のカラスが賑やかに町へ町へと向かっています。
「エサもな~い!こ~んな所で
怠けてるんじゃないカァ~!」
「カァ~ハッハッハー!」
ののしりながら急いで行きます。
毎朝毎晩の事です。
子カラスは、身動き一つしない母をみつめて、
またまた声を出さずに涙をこぼしました。
涙は、電線の下の冷たく白い野原に
『スゥーッ』と落ち、
音もなく吸われて消えていきました。

ある朝、いつものように
母と子は、少ないけれどエサが採れる電線に
並んでいました。
そして、いつものように
仲間のカラス達は、親子をあざけって町へと
出かけて行きました。

やがて日が暮れて、
子カラスも母と一緒に山に帰りました。
でも、今日はどうしたのでしょう!
町から仲間のカラスが戻って来ません。
次の日も、その次の日も黒い姿を見かけませんでした。
子カラスが母に尋ねます。
「母さん、おじさん達み~んな、町へ行ったまま
帰って来ないよ~?」
「そうだねぇ。」
「どうしてなの?死んじゃったの~?」
「さあねぇ。」
「おいしいエサが、い~っぱい!
い~っぱいあるって、言ってたのに。」
「そうだねぇ。」
「母さん!エサがあっても死んじゃうの?」
「ぼうや!母さんはね。
エサがなくて死んだカラスは一羽だって
見たことないんだよ。人さまに迷惑かけたり、
不注意で死んだカラスはいるけどね。」

すると、子カラスは電線の上で羽をバタバタさせながら
遥か彼方の雪山をじっと見て言いました。
「僕わかったよ。母さん!
カラスの道を守れば、エサは必ずみつかるんだって!」
「そうだねぇ。」
「僕はカラスの道を守って死なないようにするね。
母さん。」
「そうだね。ぼうや。」
今日も電線の上、お腹をすかしたカラスの親子が
仲良く並んでいます。