緩やかな優しい童話

ドキドキハラハラする話を探していらっしゃった方々には申し訳なく思うような、何の盛り上がりもない緩やかな優しい童話を綴っております。これらは、過去の執筆ですが・・・、いつかはこの小さな宝石が少しづつ溜り、宝石箱が立派に埋まればいいな、と祈りを込めて。

いやしの童話

この童話サイトを訪問してくださり、感謝いたします。童話を検索してなのか、或いは、ネットを散歩なさってなのか、どちらであっても、一期一会ですね。

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童話「リナのすてきな真夏の絵」

歩けなかった少女リナが待ちわびた夏休み。待ちきれないリナは届くはずもない宛名で手紙を書きます。そんな場面から始まる思いがけない楽しい夏休みを絵画を通じて経験すると言う童話になっております。


 

 

リナのすてきな真夏の絵

童話の宝石箱のリナ

十二歳の内気なリナは、今日も窓から梅雨空を眺めています。
今年になって二度も大きな手術を受け、
やっと歩けるようになった両足を
そっと押さえています。
自分で跳んだり駆けたり出来るようになったのです。
早く夏が来ないかなあ!
待ち遠しくて仕方ありません。
でも昨日も今日も曇り空、そして雨・・。

リナはついにある事を決心します。
「夏」に早く来てもらえるように
手紙を出す事にしました。
宛先は「南の空太陽の国風の故郷6の7」
そして宛名は「今年の夏様。」
郵便番号は「021-2007」にしました。
差出人として自分の名前リナと書きました。
深呼吸をしてから
向日葵(ひまわり)模様の便箋(びんせん)に
文章を書き始めます。

「はいけい今年の夏様へ」・・
次を綴(つづ)ろうとしますが内気なリナには
今一つ勇気が足りません。
それで目を閉じて、
真っ青の空に白い絵の具を塗りつけたような入道雲と
その下に広がるキラキラの海を、想像します。
熱い砂の上を思いっきり走る自分を
思い描いているうちにペンが力強く動き出しました。

リナは書きました。
足の手術を受けて歩けるようになった事。
夏の海も山もお花畑も大好きだけど
生まれてから一度も自分の足で経験した事がない事。
楽しみにして毎日南の空を眺め、
今年の夏を待っている事など
全部書き終えると
フーッと溜め息をついて封をし切手を貼りつけ
雨の中をゆっくり歩いていって投函しました。

五日後の昼過ぎ、
宅急便を受け取ったリナのママは
不思議そうな顔をしながらリナに小包を渡しました。
差出人は「今年の夏より」です。
リナは驚きと期待で
ドキュン!ドキュン!とする胸を押さえながら
長方形の包みを開けました。
三枚の絵が出てきました。
眩(まぶ)しく光る夏の海と
風に歌う深緑の山、
そして地平線まで広がる向日葵畑の絵です。

リナは部屋の中で考えました。
夏を待っていたのに三枚の夏の絵が返事でした。
とてもステキな絵だと思いますが
ようやく歩けるようになった足にとって、
何の価値もありません。

窓を開け、曇り空に向かってつぶやきます。
「夏さん、絵をありがとう。でも意味がわかりません」
すると、
曇った空の遥か上空にほんの少し隙間が出来て、
太陽の光がまっすぐに射し込み始め、
リナの足元の海の絵に届きました。
途端に「ザァー!」
という波の音と共に、
リナの足は砂浜の上に立っています。
リナは夏の海にいました。

童話の宝石箱のリナ ジリジリと照りつける太陽と
ザブンザブン騒ぐ波と水平線に座る白い入道雲を、
全身で感じ取ります。
両手を潮風に向かって振りまわし、
砂の熱さにアッチチ!と叫びながら
大勢の水着の人たちの間を縫って岩場まで
思いっきり走ります。
リナは岩陰に磯辺をみつけ小さなカニや魚と遊びます。
でも、やっぱり潮風の中を歩き出します。
さらさらの砂に食い込む足の重さにも感心しました。
嬉しさの余り叫びたいのですが、
内気なリナは誰とも話さず波打ち際を
どこまでも歩きました。

誰もいない所にきた時、
ふと見上げると二枚目の絵と同じ姿の山の麓に
いたのです。

「ミーンミーン!ジージー!」
蝉の合唱がリナの気持ちをワクワクさせます。
緑の香りのする風が幾度も頬をなぜます。
ビーチサンダルからいつのまにか
スニーカーに替えられている足元も気にせず、
元気になだらかな山道を歩き出しました。
渓流のせせらぎの音を左に聞きながら・・
木漏れ日にウキウキしながら・・
一本道を歩き続けました。
喉が渇くと甘い沢の水を手ですくって飲み、
「おいしーい!」
声を上げながら右を振り返って見ると・・。
そこには三枚目の絵と同じ向日葵畑が
夏風に揺れています。

童話の宝石箱のリナ 葉っぱはクスクス笑っているような音色を出しています。
丸ーいその花は、お日様と真っ直ぐ向き合って
黄金色に輝いています。
リナは自分と同じ背丈の向日葵なので、
一つ一つにあいさつをしながら歩き出しました。
「こんにちは」
「よろしくね」
今度は向日葵畑の中を駆けながら、
花といっしょに夏の太陽を追いかける事にします。
途中、種を七個ポケットにしまいました。
リナは自分の足で夏を精一杯楽しみました。

スルッと、
畑を出たら目の前は、リナの家の玄関でした。
えっ!と思いながらも
「ただいまー!」と元気に入ります。
ママは、またまた不思議そうな顔をしながら、
「おかえり・・」を言います。

リナは部屋に入るとすぐ三枚の絵を壁のあちこちに飾り
日焼けしたヒリヒリの肌もそのままに、
今年の夏に感謝の手紙を書く事にしました。
「はいけい今年の夏様」・・
そして、どれほど嬉しかったかを、
リナなりに書き尽くしました。
返事は来ませんでした・・。

やがて本当の夏休みがやって来ました。
慎重なリナのパパは
「海も山もリナの足にはまだ無理だろう。
二学期から、学校まで自分で歩いていく事のほうが
先だね・・」と決めたのです。
リナは、やっぱり・・と思いました。
それで夏休み中、内気なリナは近くの公園に行ったり、
読書をして過ごしました。

壁にあった三枚の絵は、
いつのまにか一枚ずつ消えていきました。
光る夏の海と、深い緑の山の絵はありません。
そして、今日で夏休みが終わりという日、
向日葵畑の絵もフッ!と消えてしまいました。
残ったのは小さなビンに入った、
七粒の向日葵の種だけです。

リナは窓を開け、
輝く太陽と雲に向かって勇気を出し大声で叫びました
「今年の夏さーん!ありがとうー!そして、
さようならー!」
すると、
白い雲がムクムク動き出して向日葵の形になり、
そこへ太陽の金色の粉がキラキラふりかけられ、
青空の中で光ったのでした。