宝石が見つかりましたか?

たとえば親が子どもに読み聞かせたり、大人がひとり静かに読んだりしてみる楽しみも、童話にはあるかと思います。親が子どもに与える宝石のように、そして、ひとりでそっと心の宝石箱を開けて眺めてみるように・・・。そんな願いを込めての童話の宝石箱です。

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童話「たんぽぽ坊やのパラシュート旅行」

母から旅立つ小さなたんぽぽの子供である種子が、風まかせで旅行します。辿り着くのは母の故郷でした。その旅のようすを描いている童話となっています。

 

 

たんぽぽ坊やのパラシュート旅行

童話の宝石箱のたんぽぽ坊や

北風が吹き始めました。
街路樹の根元に咲いていた
たんぽぽ母さんの黄色い花も種になり、
ふわふわの綿毛のパラシュートも出来上がりました。
母さんは可愛い種になった子供たちに
子守唄のように、故郷のことを毎日話しました。

母さんの故郷は、
鳥がさえずり小川のせせらぎも優しく、
つくしさんやよもぎさんと一緒に
たんぽぽ仲間がお日様を体いっぱい浴びる楽園でした。
母さんは子供の頃、
南風に吹かれてこの街路樹の根元に着陸したのでした。
たんぽぽの坊や達は母さんの故郷のお話が大好きです。
人間や車やビルしか知らない坊や達は
母さんの故郷を目指して旅立ちたい
と願うようになっていました。

ある日、木枯らしのひと吹きで
坊やたちは母さんから離れ
大空へ舞い上がり旅立ちました。
どの種も舞い上がったのに、
一個だけ母さんから離れません。
母さんは仕方がないので待ちました。

何日も経った冬の朝
ついに一陣の北風と共に
最後のたんぽぽ坊やのパラシュートが吹き上げられ、
旅が始まりました。
坊やのパラシュートは風に乗って
どんどん空へ昇ります。
坊やの育った街路樹のところ、
大きな屋根だった樹がずっと下に見えます。
たった一枚の葉っぱのようです。
たんぽぽ母さんはもう見えません。でも、
「母さん・・さようなら。
僕がんばって母さんの故郷みつけるからね」」
と涙をこらえました。

坊やは北風に向かって
「風さん、母さんの故郷の楽園まで運んでね」
と、頼みますが気ままな風は南へ東へと吹き、
坊やと遊びたがるだけです。
でも坊やは生まれて初めてみる世界に大喜びです。
昼下がり、そろそろ母さんの故郷が見えてくるかな、と
期待していると目の前に地面のようなものが見えます。
風のいたずらでパラシュートがくっついて着地です。
「きっとここが母さんの故郷に違いないや」
坊やは安心します。
「あとは雨を待つばかりさ・・」
冬の日差しを浴びながら坊やは疲れて眠り込みます。

突然バタンバタン!
大きな音と同時にパラシュートが舞い上がります。
あれっと思う間もなく、空へ戻されてしまいました。
高層住宅のベランダに干されていた布団を
人間のお母さんが叩いて中へ持っていったのでした。
でも布団など知らない坊やには地面が動いたのだ
と思ったのでした。

空中で固い決意をします。
「今度はしっかり、動かない地面を捜さなくちゃ。
風さん、またよろしくね!」
白い綿毛のパラシュートにぶら下がり
南へ東へと誘う気ままな風に乗って旅は続きます。

お空は青く澄み切って、坊やは思う存分
高く遠く飛んでいます。ところが、
夕暮れになるとイタズラ風さんが居なくなりました。
「ねェ、風さんどこなの?」
尋ねますが返事がありません。
たんぽぽ坊やの綿毛のパラシュートは、くるくる
回転しながら地上へとゆっくり降り始めました。

薄暗くなってからパラシュートが着地したのは
公園にある、いちょうの木のてっぺんでした。
もう葉は落ちてありません。
でも、なぜか坊やが足元を見るとたった一枚残っていて
その黄色い葉っぱに降りたのでした。

木のてっぺんの一枚の葉に坊やは言いました。
「いちょうくん!今夜は泊めてね。でも、
君はどうして落ちなかったの。」
いちょうは黄色い葉先を静かに震わせながら
答えました。
「これ迄、勇気がなかったんだ。
だけど明日の朝、世界一美しく舞いながら散ることに
決めていたところだよ。」
坊やは思わず小さな手で拍手します。
いちょうの気持が良く分かるからです。
そして言いました。
「じゃあ、僕も一緒に君と飛ぶことにするよ」
と約束します。
黄色い葉っぱの上に白い綿毛のたんぽぽが
そっと乗ったまま公園の夜は更けました。

昨夜はどこかへ行っていた気ままな北風さんが、
冬の日の出と共に帰ってきました。
ヒューッという声を出して公園までやってきます。
いちょうが大声で叫びます。
「さあたんぽぽくん!
いよいよ今年最後になる世界一のフィナーレを
見守ってくれ!」
坊やも大声で答えます。
「わかった、僕も飛びながら必ず見るよ。」
ヒユーッ!
鋭い音がいちょうの大木をすりぬけたかと思うその時、
金色の朝陽を浴びたいちょうの葉が風と共に
上空に舞い上がりました。

たんぽぽ坊やも吹き飛ばされて空へ舞い上がります。
次の瞬間、
坊やは生涯決して忘れることのできない景色を
目にしました。黄色いいちょうの葉が、キラキラ!
金色の光の翼をつけて、お空で舞い踊っているのです。
朝日の光の翼は、いちょうの葉が向きを変えるたびに
円を描き虹色を残しながら羽ばたいています。
木の一番てっぺんから地面に届くまで、金色と虹色の
光の中で舞ういちょうくんの姿に深い感動を覚え、
「すごい!スゴーイ!」
坊やは涙ぐんでしまいました。
坊やは地に降りたいちょうくんに
「世界一美しい舞いを僕は絶対忘れないよ。
来年もガンバッテね」
空からお礼とお別れを告げました。

坊やは南へと風さんに運ばれて行きます。
感動で熱くなった心のまま白い綿毛のパラシュートに
吊られて・・・。
白い綿毛のパラシュートは風さんと仲良く
飛び続けます。
下を見ると枯れた草原が広々と大きく開け、
端っこは冬の空とつながっています。
坊やが見た事のない世界ばかりです。

風さんはさらに南へと誘います。
するとサーッという音が、お空にいる坊やの耳に
聞こえました。
下を見ると水が細長い行列をつくって
行進曲を歌っているようです。
風さんがクスクスッと笑いながら言いました、
「小川を知らないなんて!」
この言葉を聞いた坊やは
母さんが話していた故郷を思い出しました。
「そうだ、きっとここに違いない。
鳥のさえずりも聞こえるし・・。
でもお日様が隠れちゃってるなあ・・」
心の中でつぶやいていると
パラシュートが、白く冷たいものに覆われました。
考える間もなくフワーッと地面に着地します。

ぶるん!
体を揺すった坊やは自分が雪の綿粒に包まれて
落ちたことを知りました。

すると
「こんにちは♪」
「ようこそ♪」
「よろしく♪」
優しい大勢の声がします。
振り向くと、よもぎさんやつくしさんや
たんぽぽ仲間の若芽達がほほえんでいます。
坊やの旅の終着駅、母さんが南風で旅だった故郷の楽園
だったのです!

冬になり、遅れてしまっても勇気を出して
旅だったおかげでした。
末っ子の坊やは北風に運ばれ、長い旅をして
ついにここに着けたのです。
綿毛を振りながらたんぽぽ坊やは叫びます、
「風さ~ん!ありがとう~!僕がここに着いたことを
母さんに伝えてね!」
風さんは
「ヒュー!」
と答え、雪降る冬空へ消えていきました。